【契約更新と雇止め】更新手続きは厳格に行いましょう~人事部・管理職の仕事に役立つ法律知識 労働法⑧

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ボンジュール!HRガーデン~人事部・管理職の仕事に役立つ法律知識、労働法の第8日目、契約更新と雇止めについてです。

労働法 第8日目 契約更新と雇止め

今回は、パートやアルバイト、契約社員、嘱託社員など、期間を定めて雇用する社員(以下有期契約社員)とは切っても切れない問題、契約更新と雇止めのお話です。6か月、1年など、期間を定めているからには、必ず契約更新があるんですね。そして、契約が更新されないことを雇止めといいます。雇止めと解雇は違います。解雇とは、契約期間の途中に会社側から一方的に労働契約を終了させることです。正社員であれば、期間の定めがありませんので、一方的に辞めさせることは当然解雇となります。雇止めと解雇の区別は明確にしておいてください。

契約更新は厳格に行う必要があります

有期契約社員、いわゆる非正規社員(派遣社員を除く)にとっての労働契約は、労使ともに意識が薄いケースが多々ありますが、ある意味正社員以上に重要なものです。ことさら、契約更新については、厳格に行わなくてはいけません。

労働者にとっては、時給や休日などには目が行っても、契約期間については、無頓着なことが多いのではないでしょうか。退職の申出があれば受けざるを得ないのが通例であり、その意味では6カ月や1年などの契約期間に意味が無いようにも思えます。また、会社によっては、働きたい人は事業縮小等がない限りはずっと働き続けるのが当然のような運用が行われており、労働契約の更新は機械的に通知が送られてくるだけ、といったこともあるでしょう。

しかし、このような感覚での運用は、会社側にとって非常にリスキーです。

更新の有無と、その判断基準の明示

まずは、法令で求められる明示義務から。

  • 契約期間
  • 契約更新の有無
  • 更新の判断基準

上記3点については、必ず書面等によって、労働者に対し明示しなくてはいけません。普段意識しないといっても、必ず雇用契約書には書いてあるはずです。書いてなければ、この時点でアウトです。

「更新の有無」とは、例えば、

  • 更新する場合がある
  • 契約の更新はしない

のどちらかの記載が一般的です。あるいはもっとシンプルに「有・無」のどちらかに〇をつけるといった契約書もあります。通達では、「自動的に更新する」という文言も例示されていますが、もしこのような表現を使用されていた場合は、直ちに見直す必要があるといえます。理由については、後述します。

「更新の判断基準」とは、例えば、

  • 業務量
  • 勤務成績、勤務態度
  • 能力
  • 経営状況

などが考えられます。一つではなく、複数の組み合わせで、総合的に判断するとした契約書が多いかなといった印象です。実際、その方がいいと思います。「勤務成績」との記載だけでは、業務量が縮小傾向にある場合でも、そこを更新の判断基準とする根拠がなく、雇止めが難しくなってしまいます。

雇止めの予告について

契約更新をしない、すなわち雇止めを行う場合には、予告をしなければならないとされる場合があります。これは、厚生労働省が定める「有期労働契約の締結、更新及び、雇止めに関する基準」(以下、雇止め基準)によるものです。法律や政省令ではありませんので、守らなければ即違法というわけではありません。ですが、雇止めに関する労使トラブルが発生した際には、この基準を守っていないとなると、会社側としては「適正な手続きを踏んでいる」と主張することは難しくなるでしょう。

雇止め基準によると、下記のいずれかの場合には、契約満了日の30日前までに予告をしなければならないとされています。

  • 労働契約が3回以上更新されている
  • 1年を超えて継続して雇用されている
  • 1年を超える契約期間の労働契約を締結している

もちろん、これらの場合であっても、あらかじめ契約更新しない旨を明示しているのであれば、予告は必要ありません。直近の契約更新時に、次回の契約更新は無いと明記されていたり、就業規則上5年を超える契約更新はしないとされていたりするケースが該当します。

なお、前述しました通り、雇止めは解雇とは違いますので、解雇の際に必要な「解雇予告手当」は必要ありません。ここを混同してしまっている人事労務担当者の方が、結構な数で存在していると感じております。とはいえ、必要ないとは言っても、あまりにも急な雇止めの際に、「交渉の材料として」解雇予告手当に匹敵するような一時金を支払うということについては、決して間違ってはいません。会社としての誠意を示したと言えるでしょう(支払ったからといって、雇止めが確実に認められるというわけではありませんが)。

参考:有期労働契約の締結、更新 及び 雇止めに関する基準 について

※上記リンク先の資料は平成20年に作成されたものです。更新の有無とその判断基準については、平成24年に労働基準法施行規則で明示が義務付けられたため、雇止め基準からは削除されています。

雇止めの理由の明示

雇止めの予告が必要な労働者から、その理由を証明書として発行してほしい旨の請求があった場合は、遅滞なくこれを交付しなければいけません。証明書の様式は特に定められていませんので、適宜様式を作成し、記載することになります。会社名での発行か、人事部など部署名での発行か、はたまた押印はすべきか、などと様式が定められていない故に様々な疑問が浮上してくるかとは思いますが、正直そこが明暗を左右することはないと考えられます。形式的なことよりは、内容が重要です。

そんな理由書を請求してくる人いないでしょ、と思われた方もいるかもしれませんが、実際には存在します。急な雇止めに納得のいかない方などが、「周囲のちょっと詳しい人」に相談した結果、この理由書を請求してくるといったことがあります。理由書に納得がいかなければ、その先には労働局などによる「あっせん」や「労働審判」が待ち構えていることが十二分に考えられますから、企業側としては慎重に対応する必要があるといえます。

従いまして、「契約期間が満了したから」というような、理由になっていない理由書を発行しても、会社側が不利になるだけと考えられます。雇止め基準には、例として、下記のような文言が示されています。

  • 前回の契約更新時に、本契約を更新しないことが合意されていたため
  • 契約締結当初から更新回数の上限を設けており、本契約は当該上限に係るものであるため
  • 担当していた業務が終了・中止したため
  • 事業縮小のため
  • 業務を遂行する能力が十分でないと認められるため
  • 職務命令に対する違反行為を行ったこと、無断欠勤をしたこと等勤務不良のため

どうでしょう。上2つ以外は、(労働者だけでなく役所などの第三者にも)ご納得いただくには、これまでの契約更新時にもしっかりと「契約更新の基準」を説明していた事実がないと、会社としてはかなり厳しい展開となります(理由は後述します)。また、請求を無視という選択肢は論外です。雇止め基準は法令ではありませんが、雇止め基準は労働基準法14条2項をもとに定められた基準であり、14条3項にはその基準について行政官庁が助言及び指導を行える規定があります。送検や企業名公表のような事案ではないにしろ、行政から指導が来るようなことをやる、というのはかなり思い切った判断といえるでしょう。

労働基準法 第14条 

2 厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止するため、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることができる。

3 行政官庁は、前項の基準に関し、期間の定めのある労働契約を締結する使用者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。

雇止め法理の法制化

ここで、なぜそんなにも雇止めを規制しなければいけないのか、そもそもパートやアルバイトなどの有期契約社員は、雇用の調整弁として労使の思惑が一致した存在であるのだから、もっと自由に雇止めが行われてもいいのでは?と考える方もいます。

しかし、現代においては、小遣い稼ぎや家計の補助ではなく、稼ぎ柱としての有期契約社員が当たり前となっており、労働者保護の観点から、一定の場合は雇止めが無効となるという最高裁判例が確立されています。これを雇止め法理といいます。この雇止め法理は、平成24年に労働契約法19条として法制化されました。

労働契約法 第19条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

長ったらしい条文ですが、一号二号に該当する状況の中で、労働者が契約更新を希望してきた時は、「客観的に合理的な理由」がないと雇止めはできませんよ、と言っています。「客観的に合理的な理由」という文言は、解雇する際の規制で使われる文言です。

労働契約法 第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

解雇については別の日に説明しますが、要は一号二号に該当する場合に、本人が更新を希望しているにも関わらず雇止めを行うということは、解雇が認められるくらいの「客観的に合理的な理由」が必要だと言っているわけです。

では、一号を見てみましょう。ざっくり説明すると、労働契約が何度も更新されている状況で、雇止めすることが、無期契約者(例えば正社員)の解雇と実質同じでしょうと言える場合のことです。

具体的な事例としてわかりやすいのが、前述した更新の判断基準において、「自動的に更新する」とされている場合です。業務内容が臨時的なものではなく、更新手続きが形式的(機械的)に行われている状況ですと、「実質的に無期契約である」と判断され、雇止めするには正社員の解雇と同じように扱いになるわけです。

雇用契約書の更新基準に「自動的に更新する」と記載している例はほとんど無いと思いますが、そのような記載でなくても、実質的に自動更新となっていないかに注意が必要です。契約期間満了の1カ月以上前に労働者と面談を行い、更新の希望を聞き、希望があるのであれば更新基準を満たしているか確認する、といった一連のプロセスを踏んでいないのであれば、「実質的に無期契約である」と判断される可能性は高いといえます。

また、雇用の継続が確実であると取れるような上長の言動があると、これもまた「実質的に無期契約である」と判断される要素の一つとなります。

二号はどうか。労働者側が、契約更新を期待するだけの合理的な理由がある場合のことです。

勤務成績や勤務態度・能力で判断としているのに、これまでの契約更新では、一度も評価についてフィードバックを受けたことがない、態度や能力について指導を受けたことがない、にも関わらず、それを理由に雇止めすることはできません。するには解雇相当の理由が必要ですよ、ということです。契約更新時に面談等を行うのは勿論ですが、パフォーマンスが良くない方にはきちんと「どこができていないか」等を説明し、場合によっては次の契約更新が行われない可能性もあると言及しておくことが必要なのです。言いにくい場合も多々あると思いますが、そうしておかないと「今まで指導されたこともない=更新基準をクリアしている」と第三者から見ても判断されることに繋がります。また、本人に取っても「急な雇止め」となり不都合です。

以上、パートやアルバイト、契約社員等の「契約更新」を軽く見てしまうと、労使トラブルが発生しやすいことは勿論、その解決にも多大なリソースを投入することになります。不当な雇止めであるとして、あっせんや労働審判で解決金を支払うことになるケースさえあります。パフォーマンスの低い方への漫然とした契約更新も、周囲の社員がその方のフォローを負担に感じているかもしれません。評価機能が働かず、同じ給料で働いている人が不満を募らせているかもしれません。

リスク回避だけでなく、従業員満足度(ES)の観点からも、契約更新手続きは厳格に行うべきものといえます。

今日はいつもより、長めでしたね。お疲れさまでした。




流浪の社会保険労務士

1983年生まれ。最後の氷河期世代。大企業向け社労士法人で外部専門家として培った知見を活かし、就業規則・人事制度・労務手続フローなど、労務管理をデザインする。社労士法人退職後は、シリーズAの資金調達に成功した急成長中ベンチャーに入社。2年後のIPOを見据えた労務管理体制をゼロから構築した。その後、M&Aに積極的な東証一部上場のIT企業にて、前例にとらわれない労務管理体制の改革や新制度の導入、グループ会社に対する労務管理支援を行う。

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