【採用・求人・障害者への合理的配慮】人事部・管理職の仕事に役立つ法律知識~労働法④

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メルハバ!HRガーデン~人事部・管理職の仕事に役立つ法律知識、労働法の第4日目 採用・求人の続きです。

労働法 第4日目 採用・求人の出し方2

では、前回の続きです。年齢制限の例外事由はまだまだあります。

3号イ 長期勤続によるキャリア形成を図る観点から、若年者等を期間の定めのない労働契約の対象として募集する場合

日本においては、新卒を一括採用し、長期間雇用することでキャリア形成を図っていくという雇用慣行となっています。さらに、新卒の就職しなかった(できなかった)方は、職探しに難航するという事象が発生しますので、その方々を救済する意味で、若年者限定とすることが認められています。「若年者」に明確な定義はなく、35歳未満でも、45歳未満でも問題なしです。40歳が若年者かどうかは知りませんが。

なんだ、この理屈をこねれば年齢制限できるやん、といったところですが、1号と同じく「期間の定めのない労働契約」であることが必要です。前述の趣旨からすれば当然ですよね。いわゆる正社員で雇用しなさいと。加えて、①「職務経験を不問とすること」、新卒でない場合は「新卒者と同等以上の処遇にすること」が求められます。これも趣旨から考えると、なるほどな、といったところですね。ちなみに、職務経験を不問にするということは、募集する職務についたことがないと取得できない資格を要件とすることもできません。この点、注意が必要です。なお、下限年齢の設定はNGです。求人募集をみると、「3号のイ」と表示されているものを見かけると思います。まさに、これのことですね。

3号ロ 技能継承の観点から、特定の職種において労働者が相当程度少ない特定の年齢層に限定し、かつ、期間の定めのない労働契約の対象として募集する場合

これもやはり、長期雇用が前提と考えると、特定年齢層が不足している場合は、企業の存続にマイナスであろうということで設けられています。ここでいう「職種」は、厚生労働省の「職業分類」における小分類もしくは細分類、または総務省の「職業分類」における小分類を参考にします。「特定の年齢層」とは、「30~49歳」の範囲で、5~10歳幅で設定することになります。設定した年齢層の人数が、同じ年齢幅の上下の年齢層と比較して、2分の1以下の人数であることが必要です。条件に該当するかの判断は、「企業単位」で行うことが原則ですが、事業所単独で採用を行っている場合は、その事業所単位で判断することも認められています。となると、結構怪しげといいますか、恣意的な運用もできるんじゃね?という疑念が湧きますが、そこはモラルの問題でしょうかね・・・

3号ハ 芸術・芸能の分野における表現の真実性などの要請がある場合

こちらは演劇の子役や撮影モデルなど、その年齢でなければ意味がないものですね。その昔、とある漫画でおじさんになっても子役ができるというキャラが登場しましたが・・

3号ニ 60歳以上の高齢者または特定の年齢層の雇用を促進する政策(国の施策を活用しようとする場合に限る)の対象となる人に限定して募集する場合

下限年齢についても原則NGなわけですが、「60歳以上」として募集することは可能です。また、「国の施策を活用しようとする場合に限る」というのは、雇用関係の助成金のことです。特定求職者雇用開発助成金というものがありまして、60~65歳の高年齢者も対象となり得ます。これに合わせて、「60~65歳の方を募集」とすることも問題なしです。

年齢による差別禁止については、以上です。厚生労働省では、以下のようなリーフレットを作成していますので、確認してみてください。

・厚生労働省作成リーフレット その募集・採用 年齢にこだわっていませんか?

障害を持っている方への採用差別禁止

障害者雇用促進法において、障害者への採用差別禁止がうたわれていると2日目にお伝えしました。採用後は勿論のこと、募集時においても「合理的な配慮」が義務付けられています。求人に「障害をお持ちでない方」などの表記をすることは当然禁止されていますが、選考の段階において、例えば聴覚障碍者に対して筆談で面接を行うなど、配慮をしてくださいね、ということです。年齢と同じく、脊髄反射的に「障碍者の採用は無理」と決めつけることは許されません。とはいっても、大企業ならともかく設備投資で経営が圧迫されてしまう・・ということも当然あります。そこで、この合理的配慮が規定されている、障害者雇用促進法36条の2では、「事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるとき」は、この義務を免れるとする但し書きがあります。

障害者雇用促進法 第36条の2 事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となつている事情を改善するため、労働者の募集及び採用に当たり障害者からの申出により当該障害者の障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。

なるほど、では「過重な負担」とはどの程度か。厚生労働省の合理的配慮指針により、① 事業活動への影響の程度、 ②実現困難度、 ③費用・負担の程度、 ④ 企業の規模、 ⑤企業の財務状況、 ⑥公的支援の有無 を総合的に勘案して個別に判断するとしています。ちょっと判断に困ってしまいますよね。ただ、少なくとも「10人程度の会社で、財務状況がギリギリの状態が常である」といった場合に、大規模な設備投資が必要な障害者の方をお断りせずに面接するべきか、といえばそこまでの話ではないでしょう。その場合は、丁寧に環境を整えることが難しい旨を説明し、お断りをすることになります。うちは小さな会社だから無理、と機械的に判断することはよろしくありません。

判断が難しいのが、中規模・中堅の会社ではないかと思います。大企業であれば、CSRの観点や障碍者雇用率を満たすために、むしろ積極的にということもあるでしょう。しかし、中規模・中堅の会社で、現在障害者雇用率を満たしていて、となった場合に、どこまで「合理的配慮」を考えなくてはいけないか。雇用率を満たしていない状態だとしても、現時点では受け入れが困難な障害をお持ちの方のために「配慮」をすべきか。まあ大企業であっても、判断が難しいケースは多々あると思います。判断を会社に丸投げするな!と言いたいところですが、明確な判断基準を設けてしまうと、「ここまではしなくてよい」と最低基準で考えられてしまいがちなので、それを防ぐ意味もあるのだと思います。

なお、障害があることのみを持って採用拒否するのがいけないのであって、受け入れ準備はあるけれども、能力的・性格的な観点などから採用を見送ることについては問題がありません。

ご興味のある方は、下記リンクから、法律の概要と指針に飛ぶことができます。事例集についても整備されました。こちらを見て、判断していくことになるでしょう。

本日もお疲れさまでした。

流浪の社会保険労務士

1983年生まれ。最後の氷河期世代。大企業向け社労士法人で外部専門家として培った知見を活かし、就業規則・人事制度・労務手続フローなど、労務管理をデザインする。社労士法人退職後は、シリーズAの資金調達に成功した急成長中ベンチャーに入社。2年後のIPOを見据えた労務管理体制をゼロから構築した。その後、M&Aに積極的な東証一部上場のIT企業にて、前例にとらわれない労務管理体制の改革や新制度の導入、グループ会社に対する労務管理支援を行う。

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