人材定着へのヒントはキャリアパス?~若手ビジネスパーソンインタビュー①~

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ここ数年、活況を呈す転職市場は企業の人員確保において悩みの種でもあります。コロナショックの影響がどれほど転職市場へインパクトを与えるかは未知数ですが、少なくとも1つの企業に定年まで勤めようと考えることが、特に美徳でもなければローリスクでもない世の中になったことは確かです。70歳までの就業機会確保(努力義務)や一連の働き方改革などの労働法制もあいまって、企業側の終身雇用維持も限界が近づき、社員側の労働に対する価値観変化の波についても容易に止まらないものと考えられます。

人はどんな時に退職するのか?

人材の定着には何が必要なのでしょうか。ヒントを得るため行った、若手ビジネスパーソンへのインタビュー内容をもとに考察します。

———2019年2月(東京都内某所)——————

黒川さん(仮名)は23歳の女性で、高専を卒業し、新卒で勤めた会社の4年目です。職種は建築系のホワイトカラー専門職。会社規模は100人前後で、創業15年ということもあり、平均年齢は30代と若い。女性比率は半分ほど。

彼女自身は会社に対し大きな不満を持っていない印象ですが、同年代の社員が辞めていくことも多く、40人規模の事業所にも関わらず、4年で13人ほどが退職したそうです。結構な割合ですよね・・。新卒者が辞めることもあるそうです。果たしてどのような理由で、退職者が発生しているのでしょうか。

過重労働は特にない・・が、残業はある~キャリアパスをうまく示せるか~

よくある離職理由として、過重労働が挙げられます。違法な長時間労働はもとより、法律や36協定の範囲内で適法だとしても、例えば月に60時間程度の時間外・休日労働が、恒常的に繰り返されるなどという状態には、全く持って耐えられないという方も多いでしょう。

ところが、残業はあるにしても、多い時で40時間程度ということで、特段の過重労働ではありませんでした。また、勤怠管理は静脈認証で行われており、サービス残業は一切なし。労働時間の把握義務については、働き方改革の一環でなお労基署が目を光らせる事案となっていますが、いまだ無頓着に出勤簿にハンコを押しているだけの会社もあります(いやホントです・・)。その中にあっては、かなり真面目に勤怠管理をしているといえるでしょう。

とはいえ、全く残業がないわけではないので、子どもが生まれた男性社員が、プライベート時間を確保したいと退職したこともあったそうです。労働への考え方は本当に人それぞれです。

また、「スキルアップのための勉強時間が確保できない」という理由で退職した同僚もいるとのこと。これはやはり会社がキャリアパスを示せていないゆえに、「焦ってしまう若手」が出現してしまうのではないでしょうか。黒川さんによると、その退職した方が望む「スキルアップ」は、今いる会社でも数年勤務を続ければ実現できることらしいです。

有休は取れる??

有給休暇については、完全消化とまではいかないものの、特に取得しにくいといった雰囲気はないとのことでした。やむを得ない理由でしか取れないといったこともなく、レジャーを理由に取得することにも全く支障がないとのことです。

給与面はどうか

給与の低さについて、将来の昇給に対する期待度も含めて、満足できずに退職するケースも当然あるでしょう。ただ、(少なくとも表面上は)それを第一の理由として退職していく人はいなかったとのことです。黒川さんは、「業界内ではいい水準の会社」と分析しています。強いて言えば大卒者との差、グループ会社(親会社)との差は感じるけれども、大きな不満ではないようでした。

ハラスメント関係

一昔前では我慢するしかなかったハラスメントも、転職というカードを切って脱出することが可能となりました。とはいえ、黒川さんの会社では、パワハラ・セクハラの話は軽微な案件が少々あるものの、退職につながるような酷いものは聞いたことがないとの回答。育児休業はしっかりとれて、復帰者の実績もあります。マタハラについても、特になさそうです。

若手社員との面談機会も

黒川さんはインタビュー時、会社から東京以外の支店へ異動を打診されていました。特に縁のない土地ですが、前向きに考えられているようです。もともと地方の出身で、抵抗があまりないのかもしれませんが(一度上京で知らない土地に来ている)、それでも転勤をネガティブに捉える人も多い中、「期待されている」と感じています。

出世についても「したい」とし、身近な上司の労働時間がさほど長くないこともプラスに働いているようでした。

会社への不信感は特になく、定期的に若手社員と面談の機会を設けており、そこで不満や疑問を吸い上げることも行っています。最近は面談で出た意見がもとになり、家賃補助が上がったそうです。

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総括

36協定があるかどうかは不明ですが、著しい時間外・休日労働や、サービス残業、ハラスメントがあるわけではありません。また、若手が意見を言えない雰囲気ということもなく、面談の機会もあります。中途採用のボリュームゾーンと思われる30代が平均年齢であり、男女比率も半々、世代間ギャップなどの人間関係でストレスが生じる環境ということもなさそうです。回答者自身も不信感はなく、退職の予定もありません。

それでも40人のうち毎年3人が自己都合退職していく・・。これはいったいどういうことでしょうか。

もはや時間外の少なさや有休の取得しやすさ、というのは最低限度のことであって、人材定着にはさほどプラスには働かないのではないでしょうか。それらが「必要ない」「求められていない」のではなく、最低限度のことなのではないか、ということがポイントです。

事実、多い時でも月間40時間程度の残業ですが、業務過多を理由に退職する人がいるわけです(子供が生まれた方や、若手で経験不足ゆえに精神的辛さが加算される人など)。

人材定着の最大公約数的な解決策として、やはり「時間外労働の削減」と「有休を取得しやすくする」ことが最優先事項といえます

そして、プラスアルファを考えなくてはならないのであります。

では、プラスアルファとは具体的に何をすればいいのでしょうか。

一つのヒントは現代の若者が抱える「キャリアパスへの不安」です。

目まぐるしく変わるビジネス環境により、汎用性のあるスキルを身につけなければ!とおびえている若手が多いのではと感じます。具体的に、〇〇を勉強する時間が取れないから、と退職に向かう人もいるわけです。

この会社にいることで、「どのような経験・知識が身につくのかを、入社時点や面談時に教える」「本人が勉強したいことなどを面談等で把握し、業務量を調整する」などが求められているのではないでしょうか。

今回インタビューした黒川さんは、冷静に自社の全体像と他社の状況を把握し、世間相場などを考えたうえで、ある程度の満足感を得ています。しかし、そこまで冷静な分析ができる社員がどれだけいるでしょうか。社会人経験が浅い若手ならば、尚更その比率は低くなると想像できます。やはり、会社が一定のリソースを割いて、キャリアパスを示すなど社員の不安を払しょくすることが必要になってくるのです。

会社運営において、繁忙期や急な発注増加などで長時間労働となることは当然考えられます。そんな時に、「今はきついが、人員確保や効率化などで必ず対応する」といった会社の姿勢を社員に見せることが絶対に必要です。

頭ごなしに「うちは残業当たり前だから」などの説明では、連鎖的な大量離職は避けられないでしょう・・。

流浪の社会保険労務士

1983年生まれ。最後の氷河期世代。大企業向け社労士法人で外部専門家として培った知見を活かし、就業規則・人事制度・労務手続フローなど、労務管理をデザインする。社労士法人退職後は、シリーズAの資金調達に成功した急成長中ベンチャーに入社。2年後のIPOを見据えた労務管理体制をゼロから構築した。その後、M&Aに積極的な東証一部上場のIT企業にて、前例にとらわれない労務管理体制の改革や新制度の導入、グループ会社に対する労務管理支援を行う。

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