【有休を勝手に指定されるなんて改悪?】労働者も含めた意識改革の必要性~働き方改革の本質に迫る!③

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前回は、労働時間の上限規制にまつわる否定的な意見について、論点を整理し、本質に迫りました。今回は、年次有給休暇(以下有休)5日の取得義務化についてです。

有休取得日を勝手に指定されるが嫌だという主張について【有休5日取得義務】

有休を勝手に指定されることが嫌だという方がいます。確かに有休は、取得理由を問わずいつでも自由に使用できるものですので、その気持ちは分かります。ただ、10日のうち5日間が指定される場合はともかく、20日以上あるうちの5日間だけを指定されることが、声を大にして嫌だと主張するほどのことなのでしょうか。

毎年常に完全消化しているのならわかるんですけどね。取得せずに(できずに)2年の時効を迎えてしまうのが常態化しているのなら、「単純に有休が取れてよかった」となりませんかね。その会社が指定した有休について、希望によってずらしてもらえるのなら、なおよしではないかと思うのであります。

制度の良し悪しと、会社のオペレーションのまずさ(繁忙期に指定してくるなど)は切り分けて考えるべきでしょう。

病気の時などでも、とにかく有休を当て込むことを嫌う人がいますが、欠勤として扱われ、賃金控除されるよりいいはずです。会社の制度で、有給の病気休暇などがある場合は別ですけれども。単なる心理的なものでしょうか。

また、「何かの時に取っておきたい」というニーズも聞きますが、「何か」とは何でしょうか。

病気の際には健康保険の「傷病手当金」、育児・介護による休業では雇用保険から「育児休業給付金」「介護休業給付金」が出ます。どうしてもという、真にやむを得ない理由がある場合、例え有休が残っていなくても良識のある普通の会社であれば休むことは可能でしょう(給料は発生しないですが)。

そもそも、全ての企業で当たり前のように有給休暇を気軽に取得できるのなら、このような法改正は必要ありません。あまりにも有給休暇の趣旨が勘違いされ、果ては取得しないことが美徳と考える人もいます(もちろん思想は自由ですが)。体を休め、仕事以外に費やす時間を増やすことで心身に余裕ができ、より創造性の高い業務に取り組むことができます。多様な価値観、ダイバーシティ、副業など、個々人のニーズを満たすには、「誰もが当たり前のように有休を取得する」社会にする必要があるのです。

いきなり社会を変えることは難しいですが、第一歩として、やや強引な手法ながらも、「権利」である有給休暇を強制的に取得させる法改正をし、少しずつ社会全体の考え方を変えていこうという試みなのであります。

有休5日で中小企業がつぶれるという稚拙な主張

有休5日も与えたら、中小企業が潰れてしまう!

そう嘯く困った人たちがいます。悲しいことに、どうしても働き方改革の趣旨を理解したくないのです。経営層だけでなく、筆者の同業者にもいます。

もし本当に、社員に有休5日を取得させただけで倒産する会社が出たとするならば、それは元々財務に問題があり、働き方改革がなくても近い将来同じことになるのではないでしょうか・・。

働き方改革の本質に迫る!② でも触れましたが、“反”働き方改革のプロパガンダとして中小企業を利用しているだけなのです。一連の働き方改革を、労働者への“甘やかし”であるという思想があるからこそ、このような無理矢理な主張が生まれてしまうのであります。

有給休暇をたった5日間、取得させられない会社は必要か

ちょっと主張するには勇気のいる話になってしまいますが、「有休5日を取得できない企業」は、社会にとって必要なのでしょうか。あらかじめ、法定の有給休暇を与えなくてはいけないことを考慮したうえで、社員を採用しなくてはいけないわけです。当たり前のルールを守ることができないのに、人を採用するということ自体おかしくないでしょうか。そのような会社を、社会が守っていく必要があるのかが甚だ疑問です。会社が倒産すれば、社員は一時的には仕事に困るかもしれません。しかし、労働時間の上限規制などで、体力のある同業他社が更なる人手不足となり、あぶれた人材を雇用することができます。

労働時間の上限規制、有休5日取得義務、同一労働同一賃金、そして最低賃金の上昇も加えた一連の働き方改革は、「対応できない企業を淘汰させる」目的が潜んでいるとも考えられます。そして、これは社会全体にとって、必ずしもマイナスではなく、少なくとも批判されるべきことではないと思うのであります。

もちろん、明確にそう主張する政治家はいないでしょう。苦しい経営状況となっている中小零細企業の関係者はもとより、直接的に関係のない方でも「潰れていい」などと明確に主張されては、反発は避けられません。ですが、「隠れた本質的な趣旨」として確実にあると筆者は考えています。

「働き方改革実現会議」の有識者である水町勇一郎教授も、やはり明確には言わないものの、講演などでは同じ趣旨の主張をされています。

次回は、同一労働同一賃金の本質に迫ります。

流浪の社会保険労務士

1983年生まれ。最後の氷河期世代。大企業向け社労士法人で外部専門家として培った知見を活かし、就業規則・人事制度・労務手続フローなど、労務管理をデザインする。社労士法人退職後は、シリーズAの資金調達に成功した急成長中ベンチャーに入社。2年後のIPOを見据えた労務管理体制をゼロから構築した。その後、M&Aに積極的な東証一部上場のIT企業にて、前例にとらわれない労務管理体制の改革や新制度の導入、グループ会社に対する労務管理支援を行う。

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