パワハラ法制化も副業の促進も「働き方改革」の一環。残業抑制や有休5日取得だけではない~働き方改革の本質に迫る!①

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2018年7月に公布され、段階的に施行されている「働き方改革」ですが、その全容について正確に把握している方は、筆者のような労働分野に身を置く人間以外では少ないのではと感じています。一般的なご意見を踏まえたうえで、論点を整理し、働き方改革の果てにある本質に迫っていきたいと思います。まずは、大前提として、働き方改革の全体像をざっくりと「どんなものが含まれているのか」を説明していきます。

パワハラ法制化も副業の促進も「働き方改革」の一環

一口に「働き方改革」といっても、実は内容が多岐に渡っています。2017年4月からスタートした、働き方改革実行計画をもとに、法整備が徐々に進行している状況です。官邸主導の「働き方改革実現会議」により定められたもので、概要は下記リンクから閲覧が可能です。

参考:働き方改革実行計画(概要)

   働き方改革工程表(ロードマップ)

資料によると、働き方改革実行計画は、大きく下記11の項目に分けられます。(分類方法は人によって異なります)

  • 同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善
  • 賃金引上げと労働生産性向上 (生産性向上の助成金最低賃金の引上げ、賃上げ税制など)
  • 罰則付き時間外労働の上限規制の導入など長時間労働の是正 有休の確実な取得、高度プロフェッショナル制度パワハラ法制化、勤務間インターバルの努力義務
  • 柔軟な働き方がしやすい環境整備 (フレックスタイム制の拡充テレワーク副業・兼業の法整備)
  • 女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備 (学びなおし、女性活躍推進法改正、配偶者控除の見直し、氷河期世代と若者の雇用対策)
  • 病気の治療と仕事の両立 (産業医機能強化、トライアングル支援)
  • 子育て・介護等と仕事の両立、障害者の就労 (保育・介護士の処遇、男性の育児、発達障害者支援等)
  • 雇用吸収力、付加価値の高い産業への転職・再就職支援 (賃上げの助成金、転職支援)
  • 誰にでもチャンスのある教育環境の整備 (給付型奨学金、幼児教育無償化)
  • 高齢者の就業促進 (継続雇用年齢の引上げ、起業時の雇用助成措置強化)
  • 外国人材の受入れ (専門的・技術的分野以外の外国人材の受け入れ検討、高度人材は1年で永住権取得可能とする日本版高度外国人材グリーンカードの導入)

こうしてみると、直接的に労働法制にかかわってくる事柄ばかりではないことが分かります。なお、筆者の専門分野は労働分野ですので、税制度や給付型奨学金などは取り上げません。重要な問題ではありますが、専門分野でないものについて見解は示せません。決して軽視しているわけではないことをご理解ください。

2018年に国会で可決し、公布されたもの

さて、赤字で記したものは既に2018年に法改正が行われ、施行済、またはこれから施行を迎えるものです。

  • 罰則付き時間外労働の上限規制の導入(労働時間の上限規制)
  • 有休の確実な取得(有休5日取得義務)
  • 高度プロフェッショナル制度
  • 勤務間インターバルの努力義務
  • フレックスタイム制の拡充
  • 産業医機能強化(労働時間の把握義務強化を含む)
  • 専門的・技術的分野以外の外国人材の受け入れ検討(改正入管法は働き方改革法案とは別個の扱いですが、実行計画には含まれていました)
  • 同一労働同一賃金

おそらく一般的な認知度としては、「労働時間の上限規制」「有休5日取得義務」「高度プロフェッショナル制度」「同一労働同一賃金」の4つに加え、いわゆる働き方改革とは通常別個に考えられますが、「外国人材の受け入れ」についてが、よく知られているところではないでしょうか。実際、人事労務に携わる人間でなければ、その他については関係のない方が多かったり、細かすぎる改正であったりしますので、特に知らなくても問題はないかなといったところであります。

2019年に国会で可決し、公布されたものと、法整備に向けた議論が進められているもの

青字については、2019年に入ってから法案可決・公布されたもの、もしくは現在官邸主導の会議や厚生労働省の会議で法整備に向けた議論が進んでいるものです。

  • パワハラ法制化(2019年6月5日公布、1年以内に施行予定)⇒下記リンクの別記事参照
  • 女性活躍推進法改正(2019年6月5日公布、3年(1年)以内に施行予定)⇒一般事業主行動計画の公表項目(1年以内)や策定義務が発生する企業規模(3年以内)が変わります
  • 副業・兼業の法整備(今後、厚生労働省の労働政策審議会で審議予定)
  • 継続雇用年齢の引上げ(70歳までの就業機会確保として、今後、労働政策審議会で審議予定)⇒下記リンクの別記事参照

関連記事:パワハラ法制化~明記された定義とは~

70歳までの就業機会確保が努力義務に?~年金よりも根深い終身雇用の暗部~

パワハラの法制化や70歳までの就業機会確保は、各種報道機関でも取り上げられ、話題にもなりました。実はこれも、働き方改革の一環だったのです。一般事業主行動計画というのは、女性の採用比率や管理職登用比率等の現状と目標値などを定めて公表するものでして、現状301人以上の企業に義務付けられていますが、3年以内に101人以上に変更されます。

法改正は伴わないが、政策として実行していくもの

黒太字のものは、法改正は行いませんが、政令・省令などで実行したり間接的に促したりするものです。

  • 生産性向上の助成金(労働関係の助成金について、生産性要件を満たすと割増される)
  • 最低賃金の引上げ(年率3%を目安に上昇させ、全国加重平均で1000円を目指す)
  • テレワーク(2018年2月22日、ガイドラインが策定されました)

参考:情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン

近年大幅な引き上げとなっている最低賃金についても、働き方改革実行計画で言及されています。テレワークについては、事業場外みなし労働時間制(労働時間の把握が困難な場合に、〇時間働いたとみなす制度)について、適用可能な状況についての解釈が出されるなど、普及に向かう地盤が整えられたとも言えます。

全体的にみると、直接労働法制に関わらないものを含めて、多様な価値観があることを前提とした世の中を目指すものといえます。いまだに無限定で長時間労働を厭わずに働く終身雇用の男性正社員と、その専業主婦という組み合わせが前提で動いているので、いたるところで労働環境に歪が生じています。

世間的に大きく取り上げられる制度は、働き方改革の「一部」です。そのことを踏まえて、「労働時間の上限規制」「有休5日取得義務化」などの主要施策が目指すものを、次回以降に考察していきましょう。

流浪の社会保険労務士

1983年生まれ。最後の氷河期世代。大企業向け社労士法人で外部専門家として培った知見を活かし、就業規則・人事制度・労務手続フローなど、労務管理をデザインする。社労士法人退職後は、シリーズAの資金調達に成功した急成長中ベンチャーに入社。2年後のIPOを見据えた労務管理体制をゼロから構築した。その後、M&Aに積極的な東証一部上場のIT企業にて、前例にとらわれない労務管理体制の改革や新制度の導入、グループ会社に対する労務管理支援を行う。

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