パワハラ法制化~明記された定義とは~

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「パワハラ法制化」、5月下旬から6月上旬にかけて、この文言が新聞などのニュースメディアに踊りました。「ハラスメント規制法」「パワハラ防止法」などなど、バリエーションに富んだ法律名が飛び交っていますが、そんな名前の法律はありません。雇用対策法という雇用分野における国の責務等を定めた法律が、いわゆる一連の働き方改革により「労働施策総合推進法」と名前を変え(2018年7月6日施行)、同法の改正によりパワーハラスメント(以下パワハラ)の定義と防止措置の義務付け等が規定されました。2018年の通常国会で働き方改革法案が可決されましたが、その際の参議院付帯決議では、パワハラの規制・防止を担保する法整備が求められる旨が付されており、2019年通常国会で改正法案が提出されたという流れであります。同年5月29日、参議院で可決され、6月5日の公布となりました。施行日は現時点では未確定であり、「公布後1年(中小企業の措置義務は3年)以内の政令で定める日」となっております。一部報道では、2020年4月施行の見込みとされましたが、確定事項ではないことに注意が必要です。人事労務系の新着ニュースを考察する際は、内容も去ることながら、施行日はいつなのか、または国会で審議中であるのか、さらには法案にすらなっていない状態なのか、をまず確認する癖をつけておくといいと思います。不確実で出所のハッキリしない情報に惑わされずに済むことに繋がります。

パワハラの何が法制化されたのか?

では具体的に何が法制化されたのでしょうか。簡潔に分類しますと、下記の4つです。

  • 定義
  • 措置義務
  • 不利益取扱いの禁止
  • 行政からの勧告(企業名公表)

一つずつ見ていきましょう。

パワハラの定義

今回の法改正で、パワハラとは、①「優越的な関係を背景とした」②「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により」③「就業環境を害すること」 以上の3つの要素をすべて満たすものと規定されました。定義付けはされましたが、依然として指導との線引きが難しい面があります。これについては後述します。

措置義務

今までパワハラ等の裁判では、労働契約法第5条に規定されている「安全配慮義務」に違反しているか否かが問われていました。しかしながら、この規定は下記のように非常にざっくりとした抽象的なものであり、経営者や人事部にとってはどこまで企業が責任を負うべきなのかの判断が非常に難しいものでありました。

労働契約法第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

今回の改正では、パワハラについて社内の相談体制を整備することや、パワハラを防止するための措置が、企業に義務付けられました。具体的にどのような措置なのかは、今後労働政策審議会で意見を聴いたうえで、厚生労働省より指針で示される予定です。おそらく他のハラスメント(セクハラ・マタハラ)と同様に、相談窓口の設置や企業としての方針を定めて周知・啓発すること等が求められるのではないかと推測します。

ただ、気を付けなくてはいけないのは、これらの措置義務を果たしたからといって、前述の安全配慮義務を果たしたことになるかといえば、そうではありません。今回定められるのは最低限の措置であって、実際にパワハラが発生した際には、これまで通り企業として何をすべきかを慎重に検討する必要があります。結局曖昧なままではないかと言われればそれまでですが、最低限の措置が定められ、広く一般にパワハラの概念を浸透させることと、これまでの企業の対応を見直すきっかけになるのではと考えられます。

不利益取扱いの禁止

当然といえば当然のことですが、労働者からパワハラの相談があった場合に、そのことを理由として解雇等の不利益取扱いをしてはならない旨も規定されました。

このような規定は、例えば労働基準法第104条第2項 「使用者は、前項の申告(筆者注:労働基準監督官への申告)をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。」のように、よく見られる規定です。当然のことですが、敢えて規定することには一定の意義があると考えられます。

行政からの勧告

この手の法改正を案内すると、人事部の方などから「罰則はあるんですか?」と聞かれることがよくあります。罰則がなければ無視するのか、と思ってしまいますが、限られたリソースの中で優先順位をつけていくことを考えると、仕方のないことなのかもしれません。組織化が進んだ企業では、稟議を回すのに必要な情報ということもあるでしょう。個人的には、労務管理の優先順位は低くないと感じていますが、どうしても花形(?)である採用・育成・評価の方に目がいってしまうようです。あ、すいません、ぼやきです。

話を戻しますが、今回の法改正により前述の措置義務や不利益取扱いの禁止について、必要があると認めるときは行政からの助言・指導・勧告ができる旨が規定されました。おそらく労働局か労働基準監督署が指導等を行うことになるでしょう。そのうち、勧告を受けたにもかかわらずそれに従わなかった場合は、その旨が公表されることも規定されています。直接的な罰則というわけではありませんが、インパクトの大きいものと考えられます。(もちろん、勧告に従わないという悪質なケースに限られますが)

指導とパワハラとの線引きは相変わらず問題となる

「パワハラ法制化」について内容を説明いたしましたが、定義の説明でも言及しように、指導とパワハラの線引きの問題は依然として残り、難しいものではあります。

法案可決時の参議院附帯決議においては、今後示される指針にパワハラの行為類型を示すことが付されました。同附帯決議ではさらに、パワハラの判断について「平均的な労働者の感じ方」を基準にしつつ「労働者の主観」にも配慮すること、性的志向・性自認の望まぬ暴露(アウティング)も措置義務の対象となり得ることなどが、盛り込まれており、これらがそのまま指針に反映されるとすれば、これまで以上の慎重な対応が求められるケースが増えると想定されます。

ただ、難しい問題とはいっても、「世間一般で言われているような難しさ」ではないと筆者は考えています。よく聞かれる話で、「こんなんじゃ指導もできない」というワードがありますが、別に指導しても、もっと言えば叱ってもいいわけです。業務から離れたことに絡めて指導したり、度を超えて怒鳴り散らしたり、大勢の前で晒し者にしたりしなければいいだけです。セクハラについての、「もう女性社員と会話ができない」に近いものがあり、極端なことを言い出して自身のこれまでの行為を正当化しようとしているに過ぎません。

パワハラの線引き問題では、「信頼関係が大事」であると言われます。確かに信頼関係が構築されていれば、声を荒らげて叱られてもハラスメントとは感じないでしょう。しかし、前述の「こんなんじゃ指導もできない」といった発言が出てしまう人については、信頼関係以前の問題があると思います。以下の最低限のことを念頭に置けば、そこまでの難しい話ではないと粘り強く啓発していく必要があると思います。

1.発言内容について

長々とした文章が続いているので、箇条書きで説明します。

・とにかく業務と関係ない話を差し込まない

・出身地、出身学校、家族構成(長男、末っ子など)、趣味・休日の過ごし方、家族・友人・恋人のこと、などなど業務と関係ないことに絡めた発言は絶対にしない

例:「大卒のくせにこんなこともできない」「田舎から出てきましたみたいな奴は使えない」「アニメばっかり見ているからだ」「末っ子だから責任感がない」

・純粋に、ミスしたことや足りない部分について言及すればいい。

どうでしょう。はっきり言って、これについては特に難しくないと思います。ですが、パワハラ気質の方は、自然とこのような業務と関連性のないことに紐づけて人格攻撃をしますので、啓発が必要かと思われます。

2.口調の強さなどの程度について

これについては、確かに難しい面があると思います。よっぽどの場合には、多少声を荒らげないといけない場面もあると思いますし、決してそれがNGなわけでもありません。上記の発言内容にさえ気をつければ、少々口調が強くなる程度でしたら全く問題がありません。

そのうえで、「どこまで強く言えるかという点について、信頼関係が問題になる」のであります。

なお、机を叩くなどの威圧的行為はどんな場合でも慎むべきです。そしてもう一つ、案外浸透していないと感じるのは「大勢の前で叱らない(晒し者にしない)」ということです。強い指導を行う場合は、必ず別室で行いましょう。

以上、線引きが難しいのは確かなのですが、世間で言われている「難しい」は少々次元の低い「難しい」であるケースもあります。企業としては、次元の高い「難しい」で啓発等の対応を行う必要があると考えられます。

パワハラ防止策や相談対応について、現時点でも重要なことは沢山あります。今回の法改正について、指針が示された際には、それを踏まえての解説をしたいと思います。

kohata

1983年生まれ。大企業向け社労士法人で外部専門家として培った知見を活かし、就業規則整備・人事制度構築・労務手続フロー確立など、労務管理全般を組織内から整えるレアな存在。現在は、急成長中&上場準備中のベンチャーに在籍。ウェブメディアへの寄稿も行っております。

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