同一労働同一賃金とは?~最低限の概要を知りたい人向けのわかりやすい解説~

  1. 一般ビジネスパーソン向け
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働き方改革と呼ばれるものの中で代表的なものは、労働時間の上限規制、有給休暇の5日間取得義務、そして同一労働同一賃金です。このうち労働時間の上限規制と有給休暇の5日間取得については、2019年4月1日に施行を迎えましたが(中小企業の場合は、労働時間の上限規制については2020年4月1日施行)、同一労働同一賃金については準備期間の意味で施行日が1年遅れとなっており、2020年4月1日(中小企業の場合は、2021年4月1日)に施行となっております。労働時間の上限規制と有給休暇の5日間取得義務は、実務的には複雑な部分も多々ありますが、内容としては読んで字のごとくでございますので、「そもそも意味がわからない」ということはないかと思います。しかし、同一労働同一賃金につきましては、その文言だけでは目指すところがハッキリとは見えてきません。ここでは、一般ビジネスパーソン向けとして、この「同一労働同一賃金」がどういったものなのかを、極力簡潔に解説していきたいと思います。その観点から、法律上正社員という言葉の定義付けはされていませんが、分かりやすさを重視して、「正社員」という言葉も使用します。なお、あくまで、「一般常識的に、ここまでは知っておきましょう」といった内容ですので、企業の経営者や人事部の方がこれから対応していくにあたっては、このページの情報だけでは全く足りません。突っ込んだ内容については、企業・人事部向けカテゴリーにて、今後取り上げていきたいと思います。

「日本型」同一労働同一賃金の直接的意義

同一労働同一賃金というワードは、各国で使用されていますが、欧米のそれとは少々異なります。欧米では正規非正規を問わず、仕事(職務)に賃金が決定される「職務給」が一般的ではありますが、ご存じ日本におかれましては、正社員は職務を限定せず、その発揮できるであろう能力に応じて賃金が決定される「職能給」であり、終身雇用が前提の制度設計となっています。そして、終身雇用(長期雇用)を前提としない非正規社員については、担当する職務に応じて賃金が決定される「職務給」を適用するという雇用慣行になっています。

では、同一労働同一賃金とは、正社員についても欧米のような職務給を目指すものなのかといえば違います。本来一連の働き方改革において、終身雇用や年功序列、それに紐づけられる職能給という制度に切り込むのが望ましいと個人的には思うところではありますが、そこまでの大改革ではありません。あくまで従来の「日本型雇用慣行」を踏まえたうえでの改革です。この同一労働同一賃金も、欧米のそれとは異なるという意味で、「日本型」同一労働同一賃金とも呼ばれます。まあ、いちいち「日本型」という枕詞をつけるのもいかがなものかと思いますので、以下単に「同一労働同一賃金」として解説を続けます。

では、日本においての同一労働同一賃金とは何か。直接的に目指すものは、「正社員と非正規社員の格差是正」です(究極的には雇用対策、景気対策も背景にありますが省略します)。非正規社員の賃金は、ヨーロッパ諸国では正社員の8割程度ですが、日本においては正社員の6割程度にとどまっています。これを解消しようというのが趣旨です。従いまして、正社員同士の「同じ仕事をしているのに、あいつの方が高い給料をもらっている!」という不満を解消するものではありません。同じく、非正規社員同士の待遇差についても対象外です。とりあえず、「正規と非正規の待遇差」の問題であることを念頭に置いておいてください。

法律施行(2020年4月1日)前の現時点でも同一労働同一賃金の概念はある

もう一つ、具体的な中身に入る前に重要なことがあります。それは、法律施行前の現時点でも既に同一労働同一賃金の概念があるということです。全く新しい概念が付け加えられるというわけではありません。現行法では、労働契約法第20条により、有期契約労働者と正社員との不合理な待遇差を禁止していますし、パートタイム労働法第8条・第9条では、短時間労働者と正社員の不合理な待遇差の禁止と均等待遇(後述します)について規定しています。特に平成25年4月の法改正により新設された労働契約法第20条については、正社員と比べて不合理な待遇差であるとして、全国各地で多数の裁判が行われました。代表的な事件を挙げますと、長澤運輸事件、ハマキョウレックス事件、日本郵便事件、メトロコマース事件などがあります。うち、長澤運輸事件とハマキョウレックス事件については、最高裁での判決が出ましたが、日本郵便事件とメトロコマース事件については、高裁判決までが確定し、現在上告中といった状況であります。また、少し古いのですが、パートタイム労働法第9条については、ニヤクコーポレーション事件(地裁判決後、高裁で和解)などがあります。事件名まで細かく覚える必要はありませんが、要は現在も正規と非正規の待遇差について裁判が行われていますので、企業側としては同一労働同一賃金の施行日までになんとか対応すればいい、というわけではないということです。

「日本型」同一労働同一賃金とは、「正規と非正規の格差是正」を目指すものであり、

その概念は現行法でも規定されている。

このことを理解していないと、全くトンチンカンな方向へ話が飛んでしまうこともありますので、注意したいところです。

均衡待遇と均等待遇

現行法で規定されているのは、有期契約労働者(まあ契約社員と読み替えてもいいかと思います)と正社員の間の均衡待遇、そして短時間労働者と正社員の間の均衡・均等待遇です。均衡待遇とは、仕事内容や配転・出世の範囲に違いがあったとしても、それに応じたバランスの取れた待遇を設定してください、その待遇差が不合理であってはいけません、というものです。そして均等待遇とは、仕事内容や配転・出世の範囲が同じであれば、全く同じ待遇にしてください、というものです。

今回の法改正、いわゆる同一労働同一賃金とは、これに

  • 有期契約労働者と正社員の間の均等待遇を付け加え、
  • 均衡・均等待遇についての具体的な判断指針を示し、
  • 非正規社員から待遇差の説明を求められた時の「説明義務」を新設する

というものなのです。

少し説明を加えますと、①はこれまで均等待遇については、短時間勤務の方だけが対象でしたので、「フルタイムで働く非正規社員」については、均衡待遇しか主張できませんでした。フルタイムの契約社員・アルバイトなんてのは特に珍しくないわけですから、そこもきっちりカバーしようということです。前述の「長澤運輸事件」はフルタイムで働く定年再雇用者が正社員との待遇差について訴えたものですが、フルタイムであったがゆえに、労働契約法第20条の「均衡待遇」しか主張できませんでした。詳細な説明は一般向けという観点で割愛しますが、同一労働同一賃金の施行後でしたら、均等待遇の考え方により、裁判の結果が違っていた可能性もあると言われています。

また、②についてですが、現行法では不合理な待遇差がよろしくないという規定のみであり、具体的な判断基準が示されていません。企業側としては、どのような差がNGなのかの判断に困るという事態が生じていましたので、その曖昧さを解消するために、指針(ガイドライン)が厚生労働省より示されました。③は企業側の対応としては単純明快にいかない部分もありますが、内容としては読んでその通りといったところです。

バランスのとれた待遇差とは

均等待遇はともかく、均衡待遇―バランスのとれた待遇差―とは、どのようなものでしょうか。「待遇」には、基本給や手当、賞与、退職金等に加えて、休職や休暇制度、報奨金や福利厚生なども含まれます。基本給や賞与の差については判断が難しいですが、手当については判例・裁判例を見る限り、手当の趣旨を丁寧に精査したうえで不合理性を判断しています。

例えば通勤費の場合、仕事内容とは関係なく「通勤のための費用」として発生しているわけですから、たとえ仕事内容と配転の範囲が全く異なる場合であっても、正社員には支給して非正規社員には支給しないというのは、不合理であると判断される可能性が非常に高いといえます。

住宅手当や家族手当については、各社が定める趣旨によって判断が変わりますが、その趣旨に照らして(例えば、長期雇用を前提としたインセンティブ、転勤があるので住宅費用が嵩むなど)、非正規社員に支給しない、または割合で支給している等の差が妥当かどうかを判断していくことになります。

一部最高裁判決が出て、さらに法改正により指針が示されたとしても、依然として判断に困る場面が多いといえます。企業側の対応も勿論のこと、労働者としても「どこまで主張できるのか」の判断は、非常に難しいものです。

とはいえ、「非正規だから当たり前」というフィルターを取り外して、企業として非正規社員をどのような位置づけで雇用していくか、このままの人事制度でいいのか、ということを抜本的に問い直すきっかけといえます。「同一労働同一賃金」という言葉が曲解されて独り歩きしないよう、まずは一人一人が概要を正しく理解することが始まりではないかと思います。

kohata

1983年生まれ。大企業向け社労士法人で外部専門家として培った知見を活かし、就業規則整備・人事制度構築・労務手続フロー確立など、労務管理全般を組織内から整えるレアな存在。現在急成長中ベンチャーを支援中。ウェブメディアへの寄稿も行っております。

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