パワハラ法制化~指針で明示された行為類型と防止措置~

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「パワハラ法制化~明記された定義とは~」の投稿時点において、まだ未確定だった施行日は2020年6月1日(中小企業は2022年4月1日)となりました。一部報道では2020年4月がほぼ確定的であるような表現がされていましたが、やはり全くあてにならないことが証明されましたね。

それでは、2020年1月15日に公布された、パワハラについて企業が「雇用管理上講ずべき措置等についての指針」についてご案内します。

職場におけるパワハラの定義・類型

定義については前回お伝えしましたが、法律の条文に、

①「優越的な関係を背景とした」②「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により」③「就業環境を害すること」 以上の3つの要素をすべて満たすもの

と明記されました。

指針にはより具体的な内容が盛り込まれていますので、解説いたします。

①優越的な関係を背景とした

⇒抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係のこと

  • 職務上の地位が上位の者による言動
  • 同僚又は部下による言動で、業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行えない場合
  • 同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの

必ずしも上司や先輩からの言動とは限らず、事実上のパワーバランスによって決まるということに留意しておく必要があります。部下からのパワハラとは、なんとも情けない感じもしますが・・。

②「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により」

明らかに業務上必要性のないもの

  • 業務上明らかに必要性のない言動
  • 業務の目的を大きく逸脱した言動
  • 業務を遂行するための手段として不適当な言動 ・ 当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動

こちらはあまり具体的ではありませんが、前回ご案内しましたように、「純粋に業務についての言動のみをもって指導すればよい」だけです。本人の個人的な属性に踏み込むような言動を行ったり、大勢の前で晒しものにしたりする行為をしてはいけませんよということです。

③「就業環境を害すること」

⇒当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。

この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」を基準とすることが適当であるとされていますので、まあこれも曖昧ではありますが、著しく精神的に弱い方を基準にパワハラ認定をするわけではないということですね。そこまで会社に厳しくはしませんよということです。

①②③の全てを満たすものがパワーハラスメントとなるわけですが、具体的な行為類型としてイ~ハが例示されています。

イ:身体的な攻撃(暴行・傷害)

これはもう当たり前ですね。説明するまでもないでしょう。

ロ:精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)

  1. 人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む。
  2. 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと。
  3. 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと。
  4. 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信すること。

前回も指針に盛り込まるのでは?とご案内しましたが、「相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動」についてもパワーハラスメントの一類型として明記されました。

侮辱的とまでいかなくても、性的志向・性自認についての望まない暴露(アウティング)もハラスメントとなりますが、「ヘ 個の侵害」にて説明します。

ハ 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)

業務上の必要がないのに別室に隔離したり、意図的な無視を行ったりということが該当します。会議や宴席等に、不自然に一人だけ呼ばないというのも含まれます。

ニ 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)

管理職等の私的な雑用を命じたり、質的・量的に絶対にこなせない職務を与えることが該当します。このようなハラスメントを行ったうえで、「与えた職務がこなせてない!」と降給・降格・解雇等を行っても、無効とされる可能性が非常に高いといえます。

ホ 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)

いうまでもないですが、「シュレッダー係」などは、もう完全にNGです。

ヘ 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

これは「悪意なく」行われることが多いのではと感じています。常識的な範囲の雑談は勿論問題がないのですが、執拗に私生活に立ち入るような言動はハラスメントとなります。行為者に悪意があったかどうかは関係がありません。業務時間外や休日に、趣味の集まりに参加するように強制したり、私的な行動を制限するような行為はハラスメントです。また、「そんな趣味はやめた方がいい」「そんな恋人とは別れた方がいい」などの発言も、当事者と余程親しくない限りは控えるべきでしょう(言い方次第ではありますが)。

また、前述しました、性的志向・性自認についての望まない暴露(アウティング)もハラスメントです。自分自身の立場に置き換えて考える必要があるでしょう。

セクハラなどもそうですが、「悪意が無い」という方が一定数世の中に存在し、なんとも根深い問題だなと感じます。

会社が行うべき防止措置(事業主が雇用管理上講ずべき措置)

パワハラはいけませんね、だけでは終わらず、会社はパワハラ防止のための措置が義務付けられることになります。セクハラ・マタハラ・ケアハラ(介護休業等を取得しようとする社員へのハラスメント)については、すでに義務付けられていますが、ここでようやくパワハラについても法整備がなされたということになります。

内容については、ほとんどセクハラ等と同じです。

  • パワハラに対する方針を明確化し、社員へ周知・啓発する
  • 相談体制の整備(窓口の設置)
  • 事後の迅速・適切な対応

いまいちイメージが湧かない方もいらっしゃるかもしれませんが、実はすでにセクハラ・マタハラ等の対応方針として、就業規則に明記されているか「ハラスメント防止規程」などがあるはずですので、それにパワハラについて追記することで対応可能です。

相談窓口も同じで、既存のセクハラ・マタハラ等の窓口を拡充する対応とする会社がほとんどかなと思います。

事後の迅速・適切な対応とは、事実確認をし、必要に応じて懲戒処分等を行い、再度パワハラ防止の周知を行うといったことです。

研修を行うことは必須ではありませんが、厚生労働省が研修用動画を用意していますので、全社員に一度見てもらうような周知を行うだけでも、防止効果があるのではと思いますので、積極的に活用してみてはいかがでしょうか。

やはり線引きが難しい・・?

義務付けられた防止措置については、やや語弊があるかもしれませんが形式的な点を整えればといったところです。ただ、起きてからの対応は勿論、エンゲージメント向上のためには「まず発生させないこと」が重要と言えます。結局線引きが分からない!気軽に指導もできない!と感じられる方もいらっしゃると思います。

しかしながら、難しいのは「繰り返し問題行動を起こす社員への強い指導」を行うケースに限られるのではと思います。それ以外のケースでは、前回もお伝えしましたが「業務についてのことだけ言及する指導」を行えばいいのです。その他、指導時以外の類型については、当たり前のことではないでしょうか。

もし、行為類型の「ロ:精神的な攻撃」「ヘ 個の侵害」について、「難しい」と考えてしまうのならば、あなたは知らず知らずのうちに、部下や同僚を傷つけているかもしれません・・。

関連ページ:パワハラ法制化~明記された定義とは~

流浪の社会保険労務士

1983年生まれ。最後の氷河期世代。大企業向け社労士法人で外部専門家として培った知見を活かし、就業規則・人事制度・労務手続フローなど、労務管理をデザインする。社労士法人退職後は、シリーズAの資金調達に成功した急成長中ベンチャーに入社。2年後のIPOを見据えた労務管理体制をゼロから構築した。その後、M&Aに積極的な東証一部上場のIT企業にて、前例にとらわれない労務管理体制の改革や新制度の導入、グループ会社に対する労務管理支援を行う。

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