こんにちは!! HRガーデン~人事部・管理職の仕事に役立つ法律知識、労働法の第6日目 労働基準法に戻りまして、「労働者とは何か?」というお話です。
労働法 第6日目 「労働者」の定義とは?
採用関連で3日も使ってしまいましたが、労働基準法に戻ります。「労働者」って何ですかね?働いていれば労働者ですか?日本語的な意味では、社長さんもお笑いタレントもミュージシャンも働いていますので、その意味では労働者と言えます。日々、経営判断を下したり、ショッピングモールでネタを披露したり、薬をやったり作曲活動に没頭したり、と一般のサラリーマンとは全く感覚が違いますが、働いていることには変わりません。
しかし、法律上の定義は違います。上記の方々に労働基準法を適用すると大変なことになりますよね。労働基準法の定義を見てみましょう。
労働基準法 第9条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
はい、使用される、すなわち雇用されている者で、賃金(労働の対価)をもらっている人が、「労働基準法上の労働者」ということになります。
「労働基準法上の」としているのは、法律によって微妙に労働者の定義が異なるからです。これについては後述します。以下、説明がない限りは、「労働基準法上の労働者」を単に「労働者」と表現します。
何だか当たり前のことを言っているなあ・・と感じた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、労働者か否かが問題になることは人事や管理職の仕事の中では少なくありません。労働者である以上は、これから沢山出てきますが、時間や休日など、多岐に渡る規制を受けるわけです。大半の社員は当たり前のように労働者であり、労働基準法の規制を受けますが、時に判断が難しいケースが出てきます。
兼務役員(役員だが労働者扱いになる人)
代表取締役などのトップは勿論、経営判断を行う役員も原則的には労働者ではありません。
しかし、中小企業などでは肩書は役員でも「部長兼務」などとして、一般の管理職のような仕事に従事しているケースも多々あります。中には、実作業を行うケースだってあるわけです。これらは兼務役員などと呼ばれます。中小企業のみならず、従業員数1000人を超えるような企業であっても、さすがに実作業はなくとも管理職兼務の役員は珍しいことではありません。そういった方々に、労働基準法を適用しないというのは、なかなか酷な話ですよね。社長さんの命令で、無茶な仕事をさせられてしまったとしても、全く法律に守られないわけですから。
労働関係の法律全般に言えることですが、「形式的な肩書ではなく、実態を見て個別に判断する」というのが基本です。兼務役員は労災も雇用保険も対象です。
気を付けていただきたいのは、労働者として扱われるのは、あくまで労働者として仕事をしている時間についてでありますので、役員会議に出席している最中などは、当然労働者扱いとはなりません。役員として、取引先との交渉を行っているときにケガをしても、それは労災とは認められませんので、ご注意ください。
なお、いくら実作業を行っているなどという場合であっても、会社(団体)のトップである方については、労働者として扱うことはできません。労災も適用外です。とすると、小さな会社で実作業を行っている社長さんのケガや事故についてのリスクは、民間の役員保険などに頼るしかないのでしょうか。実は労災については、「中小事業主の特別加入」という制度があります。特別加入をするには、様々な要件があります。
①下記の企業規模であり、1人以上労働者を常時雇用していること
業種 | 労働者数 |
金融業、保険業、不動産業、小売業 | 50人以下 |
卸売業、サービス業 | 100人以下 |
上記以外の業種 | 300人以下 |
②雇用している労働者に労災を適用し、労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託していること
上記2つが要件となります。ちなみに、法律の条文や役所のリーフレットとは少々違う表現にしてあります。わかりやすくなければ、意味がありませんので。労働保険事務組合というのは、上記の企業規模であれば労災と雇用保険の事務処理を委託できる組織です。役所の認可を受けた団体で、全国に多数あります。
ただ、これも気を付けていただきたいのが、兼務役員の方と同様、労働者として仕事を行っている時だけ、労災が適用されるということです。以前、大企業の小規模子会社から、「社長にも労災を適用させたいので労働保険事務組合を探している」との相談がありましが、そういった会社さんでは社長に実作業を行わせることはないでしょうから、特別加入したところで労災を適用させる場面がないのです。民間の役員保険などでカバーしましょう。
中小事業主の特別加入については、下記の厚生労働省作成資料をご覧ください。
業務委託と労働者性
もう一つ、問題になるのが業務委託契約です。業務委託はいわゆる外注ですから、当然雇用しているわけではなく、たとえ事業所内で作業していたとしても労働者ではありません。
しかし、形式的には業務委託契約であったとしても「労働者性」がある場合は、実質的には労働者であると役所などに判断されてしまうことになります。
労働基準法9条の条文に戻ってみましょう。「使用される者」とは、すなわち使用者の指揮監督下にある者です。「賃金を支払われる者」とは、報酬に労務対償性がある者です。
ちょっとわかりにくいですね。では、具体的な例を挙げてみましょう。
清掃会社で清掃員を募集しました。雇用契約ではなく業務委託として契約を結びました。個人事業主として扱うわけですから、労働基準法に縛られず、ガンガン働いてもらいました。社会保険にも当然加入しません。
ところが、始業終業の時刻はもとより、休憩時間や作業手順など事細かに定められたマニュアルがあり、その通りにやらないと上長に指導されます。報酬は時間をベースに定められており、遅刻早退の際はその分が報酬から控除されていました。
はい、これはもう「労働者性がある」と判断される可能性が非常に強いといえます。業務委託であれば、いつ作業を行おうが、どこから手をつけようが、最終的に成果物が納期までに出てくれば問題ないわけです。そうでなければ、「指揮監督下にある」といえます。また、「労務対償性」という概念はとっつきにくいですが、例のように時間で報酬を計算し、遅刻早退で報酬を控除、決められた時間以上に働いた場合は別途手当が支払われるといった具合ですと、「事業」ではなく「労務提供」であり、実質的に雇用契約なのではないですか?ということです。
労働者性の判断基準については、厚生労働省の「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について」(昭和60年12月19日)で整理されています。
参考:労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について
判断に迷った際は、こちらを参考にするといいでしょう。見てもらうとわかるんですけど、単純に「〇〇であるから労働者」という判断にはなりません。あくまで労働者性を肯定、または否定する要素の一つとなるに過ぎません。
労働者性の判断基準1(1)ハを見てみましょう。
ハ 拘束性の有無 勤務場所及び勤務時間が指定され、管理されていることは、一般的には、 指揮監督関係の基本的な要素である。しかしながら、業務の性質上(例えば、 演奏)、安全を確保する必要上(例えば、建設)等から必然的に勤務場所及び勤務時間が指定される場合があり、当該指定が業務の性質等によるものか、業務の遂行を指揮命令する必要によるものかを見極める必要がある。
労働基準法研究会報告 (労働基準法の「労働者」の判断基準について)
つまり、いくら時間指定が労働者性を肯定する要素であるといっても、保安管理上の問題から「深夜10時から早朝5時までの作業は禁止です」とすることのみを持って、「労働者性がある」と決定付けることはできませんよ、ということです。ただ、「7時から作業開始で昼休憩を挟み16時に作業終了してください」という業務委託契約だと、かなり労働者性が疑われることは間違いないでしょう。労働基準監督署に「実質的に労働者である」と判断された日には、労働基準法や最低賃金法が適用されますから、やれ割増賃金(いわゆる残業代)が支払われてないだの、最低賃金を下回っているだのと、とにかく大変な騒ぎとなります。怪しげな業務委託契約は、絶対にやめた方がいいでしょう。
業務委託を考えるのは、どのような場合か
業務委託か労働者かが問題となるのは、次のような場合が多いかと思います。
・60代前半の方などが、定年再雇用で普通に働くと厚生年金に加入したままとなり年金額が調整されるので、本人の希望で業務委託契約として働く・・・本人の希望ではありますが、役所の判断に希望の有無は関係ありません。労働者性が疑われるような働き方をさせないように、細心の注意を払ってください。また、厚生年金だけでなく、健康保険、雇用保険、労災保険にも加入しないわけですので、その点の不利益もよく説明しておく必要があります。
・労働者側が自身のスキル向上や残業代のために長時間働くことを望んでいるが、労働時間の上限規制があるため、本人の希望で業務委託契約として働く・・・上記と同じです。ただ、一連の働き方改革を否定するプロパガンダに使われることについては、個人的に違和感があります。この点は、別記事で述べたいと思います。
・社会保険料も払いたくないし、労基法も適用させたくない・・・そのような理由で実質的な労働者を業務委託契約とするのは論外です。どうぞ摘発されてください。
これらに加えて、一部先進的な企業では、社内兼業として一部の業務を委託契約としている例もあります。雇用契約で働く業務と、委託契約で働く業務とを明確に分けておく必要があるといえます。
労働組合法上の労働者の定義
最後に、労働基準法以外の法律での定義です。
労働組合法 第3条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう。
労働基準法と似ていますが、賃金で「生活する者」ということで、失業者も含まれます。退職した方が、「不当解雇だ!」などとして労働組合に加入したうえで、団体交渉を求めることも可能なわけです。また、労働基準法上の労働者よりも広く捉えられるため、フランチャイズの店長(経営者)や派遣社員について、「雇用していないから」として団体交渉を拒否したところ、都道府県の労働委員会から「不当労働行為」と判断されてしまったこともあります。
団体交渉の申出については、労働基準法上の労働者ではないからといって、形式的に団交拒否をしてしまうのはリスクがあります。労働分野に明るい弁護士や、社会保険労務士、労働委員会等に相談してみるのが得策と思います。
本日もお疲れさまでした。
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