【採用・求人・定年と更新上限の違い】人事部・管理職の仕事に役立つ法律知識~労働法③

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グーテンターク!HRガーデン~人事部・管理職の仕事に役立つ法律知識、労働法の第3日目です。今回は採用のお話です。

労働法 第3日目 採用、求人の出し方

地味なお話が続きましたが、なんと今回は採用!前回、年齢による差別を禁止と障碍者に対する差別禁止がうたわれている法律があると説明しました。労基法を順に説明するだけでは能がありませんので、流れで採用(求人)について説明いたします。

やっぱり採用は人事の花形、なんですかね?あとは、研修・育成・評価などなど。労務管理なんて見向きもされません、いやマジで。採用にはボンボコ金かけるのに、労務管理はコストセンター扱い。エージェントに頼んだら、うだつが上がらない個性的なおじ様の入社ラッシュなんてこともあるのにね・・。あ、ぼやくと止まらないのでこの辺で。

採用 年齢による差別の禁止

はい、前回労働施策総合推進法第9条にて、年齢による差別が禁止されていると書きました。

労働施策総合推進法 第9条 事業主は、労働者がその有する能力を有効に発揮するために必要であると認められるときとして厚生労働省令で定めるときは、労働者の募集及び採用について、厚生労働省令で定めるところにより、その年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。

労働施策総合推進法とは元々雇用対策法という名前でした。一連の働き方改革と並行して、これまでの雇用確保に関する規定に加え、今後の労働法制について大まかな方針を示した同法へと生まれ変わったのであります。これ、マメな!(死語)

内容についてですが、条文を見てブラウザを閉じたくなった方もいるかと思います。本当に何を言っているのか全く分かりません。翻訳ソフトじゃないですよね?

取りあえず、年齢による差別はいけないけれども、「厚生労働省令」で定める例外に当てはまる場合は、特別に年齢制限を認めてあげます、と言っています。

ここでいう「厚生労働省令」とは、「労働施策総合推進法施行規則第1条の3」でして、例外事由がずらずらと箇条書きで記してあります。順番に説明していきますね。

1号 定年年齢を上限にする場合(期間の定めのない契約に限る)

シンプルですね。定年が60歳なんだから、60歳未満を募集するのは当たり前だろと。ただし、高年齢者雇用安定法8条により、定年は60歳を下回ることはできません。まあ、なんとなく一般常識的に「60歳」というのがありますよね。しかしながら、カッコ書きには要注意です!!期間の定めのない契約、とはなんでしょうか。一般的には正社員を指しますが、「1年契約」「半年契約」などの契約社員・パートタイマー・アルバイトなどの「有期契約者」と違い、「無期契約」である方全てを指します。「正社員」という言葉は、実は法律上定義付けされていないのです。

と、いうことは、一定期間ごとに契約更新する契約社員やパートタイマーの方など「有期契約者」の募集では、「60歳未満の方を募集!!!」とは書けないわけです。

ちなみに、「定年」という言葉は無期契約にしか使いません。有期契約者でも、一定年齢に達した方は契約更新しない旨を規定している会社もありますが、それは「更新上限」です。本人が辞めると言わない限り、労働契約が未来永劫続くというのはいかがなものか、ということで「定年」があるわけです。これは、覚えておいて損はない概念です。

余談ですが、人事の方などが「定年」と「更新上限」を使い分けていると、「ご案内がしやすいなあ・・」と思います。

パート・アルバイトなど(有期契約)の更新上限年齢と求人募集のグレーな関係

ここでひとつ、疑問が湧いてこないでしょうか?有期契約者を募集する場合、更新上限の年齢以下で募集していいか、ということです。例えば、60歳が更新上限なので、「60歳未満の方を募集します」は問題ないか?まず、前述の「厚生労働省令」が定める例外事由には、更新上限未満の年齢を要件として募集するならよいなどという規定はありません。ではNGか?と言われれば、就業規則に年齢上限を定めているのだから、その年齢未満で募集というのも特に不自然ではないように思えます。

これ、結論を言いますと、グレーゾーンなんですね。企業が有期契約者の更新上限年齢を定めるのは自由だけれども、その年齢を下回ることを要件として募集をかけることは、形式的には法令違反となります。もやもやしますが、年齢要件を出さずに募集をするしかない。60歳以上の方の履歴書が来てしまいますけど、機械的にお祈りをする、ということが多くの事業所で行われることになります。役所的には、「どんな人にもチャンスを与えてください。規則で上限があっても、(上限年齢以上の)いい人材が応募してくるかもしれません」ということでしょう。

そもそも更新上限年齢の設定はアリなのか?

今回、例として60歳を更新上限としましたが、定年再雇用者については65歳までの雇用確保措置が義務付けられています。そことのバランスを考えますと、60歳が更新上限というのは「いかがなものか・・?」とは感じます。雑感としては、65歳を更新上限としている会社が多い印象です。原則的には、年齢での一律差別を禁止しているわけですので、「有期契約の更新上限年齢という考え方自体が特殊」であり、「とはいえ、高年齢者の雇用には体力面・体調面でのリスクもあるから65歳くらいならば裁量の範囲でしょう」といったレベル感の話です。

事実、最近の判例ですが、日本郵便雇止め事件(最高裁H30年9月14日)においては、一定の年齢を上限とすることには合理性があり、無期雇用者(正社員)の定年再雇用上限が65歳であることのバランスを考えて、65歳の更新上限年齢設定を有効と判示しています。そのことを考えると、「60歳の更新上限年齢」は、それだけをもって違法性が疑われるものではありませんが、一般論として「大きな争いになった場合のリスクが少々ある」といえるでしょう。

労働分野の意思決定には、スッキリしない話も多い

どうでしょうか?なんかスッキリしない話だなあと、思われた方もいるんじゃないでしょうか。労働分野の意思決定には、このような白黒つけ難い論点について、会社のリスク許容度等を勘案したうえで、最適な選択をしていくことになります。

2号 労働基準法や、その他の法令により年齢制限が設けられている場合

1号については、文言の意味はシンプルだけれども、様々な方面に話が広がっている奥の深いものでした。2号は本当にそのものズバリです。例えば、労働基準法62条には、18歳未満の方に危険有害業務をさせてはいけないとされています。

労働基準法 第62条 使用者は、満十八才に満たない者に、運転中の機械若しくは動力伝導装置の危険な部分の掃除、注油、検査若しくは修繕をさせ、運転中の機械若しくは動力伝導装置にベルト若しくはロープの取付け若しくは取りはずしをさせ、動力によるクレーンの運転をさせ、その他厚生労働省令で定める危険な業務に就かせ、又は厚生労働省令で定める重量物を取り扱う業務に就かせてはならない。

2 使用者は、満十八才に満たない者を、毒劇薬、毒劇物その他有害な原料若しくは材料又は爆発性、発火性若しくは引火性の原料若しくは材料を取り扱う業務、著しくじんあい若しくは粉末を飛散し、若しくは有害ガス若しくは有害放射線を発散する場所又は高温若しくは高圧の場所における業務その他安全、衛生又は福祉に有害な場所における業務に就かせてはならない。

3 前項に規定する業務の範囲は、厚生労働省令で定める。

業種的に関係のない方もいるでしょうし、関係する業種の方なら既に知っている、といったところでしょうか。法律上、18歳未満の方を働かせてはいけないのだから、求人募集において「18歳以上」という年齢制限を設けることは全く問題ありませんよと。他にも、坑内労働や警備業務など、18歳未満の方について就労が禁止されている業務が存在します。こちらは、1号と違って、そのまま「当然」といった事由です。

ちょっと1号で話を膨らましてしまったので、今日はこの辺で。

まだまだ例外事由はあります。翌日にまた学習していきましょう。お疲れさまでした。

流浪の社会保険労務士

1983年生まれ。最後の氷河期世代。大企業向け社労士法人で外部専門家として培った知見を活かし、就業規則・人事制度・労務手続フローなど、労務管理をデザインする。社労士法人退職後は、シリーズAの資金調達に成功した急成長中ベンチャーに入社。2年後のIPOを見据えた労務管理体制をゼロから構築した。その後、M&Aに積極的な東証一部上場のIT企業にて、前例にとらわれない労務管理体制の改革や新制度の導入、グループ会社に対する労務管理支援を行う。

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